2008年 01月 11日
総員玉砕せよ!水木しげる
総員玉砕せよ! (講談社文庫)
水木 しげる / / 講談社
ISBN : 4061859935
azusakさんから教えてもらった水木漫画。
漫画というよりは、この漫画がドラマ化され、そのドラマが何かの賞をとっていたというので、ちょっと気になっていた作品だ。
題名の通り、戦争ものの漫画なのだが、思っていたよりはエグクなかったがそれでも、戦争の愚かさ、無意味さ、腹立たしさを感じずにはいられない漫画であった。
漫画だけど、すべてがおとぼけ調で書かれているのではないので、うわ・・・と思うシーンも多々あるが、でも、水木さんの戦争体験ものの本は文字のほうがリアリティがある。
この漫画の中では、起こったことを淡々と描かれているのだが、なにぶん水木しげるタッチで描かれているから、気の抜けた感じが(表情とか)軍隊生活の緊迫感を和らげている。
いや、もしかしたら、この和らげ感がなければ、私は最後まで読めなかったかもしれないが。
内容としては、エッセイではいろいろと水木しげるの戦争体験を読んできているので知っていることも描かれていたが、しかしながらこれは貴重な証言である。
最前線にいる、しかも、下っ端の兵隊がみた戦争。
体験した戦争。
この視点が読むものと体験者との距離を縮めてくれる。
厳しい軍隊生活の中でのぞく、人間らしい生活の一コマ。ほほえましいものもあるが、人間の欲望や愚かさ、卑怯さ、残酷さいろいろなものが混ざり合っている。
仲間がどんどん死んでいく中、明日をもしれぬ我が命をどうやったら生きれるのか、現代に生きる私には到底実感として感じることはできない。しかし、この漫画や水木しげるの戦争エッセイをとおして擬似的にではあるが、十分感じることができる。
この漫画の中で一番印象に残ったのは、玉砕せよ!と命じられたものの、生き残ってしまったものたちの行方をどうにかしたいと案ずる衛生兵である。
今の平和な生活では普通と考えられる常識が、戦争中の軍隊ではまったく通じない。
常識が別のものであるから、個人の考えがまかり通ることはありえないのだ。
軍隊こそがすべて。
規律であり、生活であり、生かされも殺されもする常識なのだ。
私にとって、この軍隊の常識こそが脅威であると感じた。
ここで命をかけて命乞いをしにいく軍医と幹部とのやりとりを抜粋引用させていただきたい。
幹部に行く前の軍医と生き残った兵隊たちのやりとり
兵隊「生きながらえたところで・・・こんなに苦しいものならいっそあの時・・・」
軍医「生きながらえたところっていいますけどね。人生ってそんなもんじゃないですか
つかの間からつかの間へ渡る光みたいなもんですよ。
それをさえぎるものはなんだろうと悪ですよ。制度だってなんだって悪ですよ。生きるのは神の意志ですよ。私は先任として生き残った81名の命乞いを兵団長閣下にしてみようと思っているのです」
「軍医どの。そんな大それたことを。我々は虫けらとしか思われてませんよ」
「虫けらでもなんでも生きとし生けるものがいきるのは宇宙の意志です。人為的にそれをさえぎるのは悪です」
「だってここは軍隊じゃありませんか」
「軍隊?軍隊というものがそもそも人類にとって最も病的な存在なのです。本来のあるべき人類の姿じゃないのです」
そして、このあと参謀との会話。
軍医「参謀どの。とうてい勝ち目のない大部隊にどうして小部隊を突入させ果ては玉砕させるのですか」
参謀「時をかせぐのだ。後方を固め戦力を充実させるのだ」
「後方を固めるのになにも玉砕する必要はないでしょう。玉砕させずにそれを考えるのが作戦というものじゃないですか。玉砕で有為な人材を失ってなにが戦力ですか」
「バカ者!貴様も軍人のはしくれなら言うべき言葉も知っているであろう!」
「私は医者です。軍人ではない。
あなたがたは意味もないのにやたらに人を殺したがる。
一種の狂人ですよ。もっと冷静に大局的にものを考えたらどうですか」
「貴様、虫けらのような命がおしくてほざくのか」
「もっと命を大事にしたらどうですか。」
「人情に溺れて作戦がたてられるか」
「日本以外では戦って捕虜になることを許されていますが、どうして我が軍にはそれがないのです。それがないから、無茶苦茶な玉砕ということになるのです。」
「貴様、それでも日本人か」
「命を尊んでいるだけです」
「女々しいことをいうな」
「女々しく聞こえましたか。男らしくなかったですか」
「なんだと。貴様上官に対する言葉を知らんなァ」
「参謀殿もうやめましょう。さっき参謀長どのになぐられましたから」
・・・・・そして、軍医はこのあと、部屋をでて、銃にて自決してしまう。
自決、玉砕、特攻、死をもってまで祖国の為に戦う。
これこそが最大の美徳といわれていた戦争中、この軍医のような発言がまかりとおるわけもない。
何が美徳なのか、わけもわからず死んでいった者もたくさんいるだろう。
そんなたくさんの兵たちの思いや無念さを嫌というほど感じさせられる作品である。
そして、もっとも驚くべきことは、この作品の90%が事実だということ。
知らなければならない事実がここにある。
水木 しげる / / 講談社
ISBN : 4061859935
azusakさんから教えてもらった水木漫画。
漫画というよりは、この漫画がドラマ化され、そのドラマが何かの賞をとっていたというので、ちょっと気になっていた作品だ。
題名の通り、戦争ものの漫画なのだが、思っていたよりはエグクなかったがそれでも、戦争の愚かさ、無意味さ、腹立たしさを感じずにはいられない漫画であった。
漫画だけど、すべてがおとぼけ調で書かれているのではないので、うわ・・・と思うシーンも多々あるが、でも、水木さんの戦争体験ものの本は文字のほうがリアリティがある。
この漫画の中では、起こったことを淡々と描かれているのだが、なにぶん水木しげるタッチで描かれているから、気の抜けた感じが(表情とか)軍隊生活の緊迫感を和らげている。
いや、もしかしたら、この和らげ感がなければ、私は最後まで読めなかったかもしれないが。
内容としては、エッセイではいろいろと水木しげるの戦争体験を読んできているので知っていることも描かれていたが、しかしながらこれは貴重な証言である。
最前線にいる、しかも、下っ端の兵隊がみた戦争。
体験した戦争。
この視点が読むものと体験者との距離を縮めてくれる。
厳しい軍隊生活の中でのぞく、人間らしい生活の一コマ。ほほえましいものもあるが、人間の欲望や愚かさ、卑怯さ、残酷さいろいろなものが混ざり合っている。
仲間がどんどん死んでいく中、明日をもしれぬ我が命をどうやったら生きれるのか、現代に生きる私には到底実感として感じることはできない。しかし、この漫画や水木しげるの戦争エッセイをとおして擬似的にではあるが、十分感じることができる。
この漫画の中で一番印象に残ったのは、玉砕せよ!と命じられたものの、生き残ってしまったものたちの行方をどうにかしたいと案ずる衛生兵である。
今の平和な生活では普通と考えられる常識が、戦争中の軍隊ではまったく通じない。
常識が別のものであるから、個人の考えがまかり通ることはありえないのだ。
軍隊こそがすべて。
規律であり、生活であり、生かされも殺されもする常識なのだ。
私にとって、この軍隊の常識こそが脅威であると感じた。
ここで命をかけて命乞いをしにいく軍医と幹部とのやりとりを抜粋引用させていただきたい。
幹部に行く前の軍医と生き残った兵隊たちのやりとり
兵隊「生きながらえたところで・・・こんなに苦しいものならいっそあの時・・・」
軍医「生きながらえたところっていいますけどね。人生ってそんなもんじゃないですか
つかの間からつかの間へ渡る光みたいなもんですよ。
それをさえぎるものはなんだろうと悪ですよ。制度だってなんだって悪ですよ。生きるのは神の意志ですよ。私は先任として生き残った81名の命乞いを兵団長閣下にしてみようと思っているのです」
「軍医どの。そんな大それたことを。我々は虫けらとしか思われてませんよ」
「虫けらでもなんでも生きとし生けるものがいきるのは宇宙の意志です。人為的にそれをさえぎるのは悪です」
「だってここは軍隊じゃありませんか」
「軍隊?軍隊というものがそもそも人類にとって最も病的な存在なのです。本来のあるべき人類の姿じゃないのです」
そして、このあと参謀との会話。
軍医「参謀どの。とうてい勝ち目のない大部隊にどうして小部隊を突入させ果ては玉砕させるのですか」
参謀「時をかせぐのだ。後方を固め戦力を充実させるのだ」
「後方を固めるのになにも玉砕する必要はないでしょう。玉砕させずにそれを考えるのが作戦というものじゃないですか。玉砕で有為な人材を失ってなにが戦力ですか」
「バカ者!貴様も軍人のはしくれなら言うべき言葉も知っているであろう!」
「私は医者です。軍人ではない。
あなたがたは意味もないのにやたらに人を殺したがる。
一種の狂人ですよ。もっと冷静に大局的にものを考えたらどうですか」
「貴様、虫けらのような命がおしくてほざくのか」
「もっと命を大事にしたらどうですか。」
「人情に溺れて作戦がたてられるか」
「日本以外では戦って捕虜になることを許されていますが、どうして我が軍にはそれがないのです。それがないから、無茶苦茶な玉砕ということになるのです。」
「貴様、それでも日本人か」
「命を尊んでいるだけです」
「女々しいことをいうな」
「女々しく聞こえましたか。男らしくなかったですか」
「なんだと。貴様上官に対する言葉を知らんなァ」
「参謀殿もうやめましょう。さっき参謀長どのになぐられましたから」
・・・・・そして、軍医はこのあと、部屋をでて、銃にて自決してしまう。
自決、玉砕、特攻、死をもってまで祖国の為に戦う。
これこそが最大の美徳といわれていた戦争中、この軍医のような発言がまかりとおるわけもない。
何が美徳なのか、わけもわからず死んでいった者もたくさんいるだろう。
そんなたくさんの兵たちの思いや無念さを嫌というほど感じさせられる作品である。
そして、もっとも驚くべきことは、この作品の90%が事実だということ。
知らなければならない事実がここにある。
by himenobile
| 2008-01-11 23:59
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